財産分与の基準日とは?

1 はじめに

離婚に関する協議や裁判などで、よく争いとなる論点の1つとして財産分与があります。財産分与は、一般的に婚姻期間中に夫婦で築いてきた財産を離婚時に清算することを意味しますが、どのように2人で分けるかを決める際、財産分与の基準日という議論は避けて通れないくらい重要なポイントになります。
今回のコラムでは、この財産分与の基準日について解説していきたいと思います。

2 財産分与の基準日は2種類あります

離婚調停や離婚訴訟で財産分与について議論をする際、まず、双方で「財産分与の基準日」について合意ができるかどうかを調停委員や裁判官から尋ねられることが多いと思われます。
しかし、実はこの「基準日」には2つの意味合いがあることをしっかりと理解しておかないと、財産分与に関するそのあとの議論が錯綜してしまう可能性もあり注意が必要です。

1つ目の意味合いは、「どの財産が分与の対象となるのか」を確定させるための基準日になります。これを「分与対象財産確定の基準日」と表現することもあり、さきほど出てきた「財産分与の基準日」は、通常、この意味合いで使われています。

2つめの意味合いは、財産分与の対象となった財産を「いくらと評価するのか」を確定させるための基準日になり、「分与対象財産確定の基準日」と区別するため「評価の基準日」などと表現することもあります。

3 分与対象財産確定の基準日とは?

財産分与の対象は、婚姻してから夫婦で協力して築き上げられてきた財産になりますので、その協力体制が終了した時点が「分与対象財産確定の基準日」となります。
原則的には物理的な別居開始時が基準日となりますが、離婚を前提としていなかった単身赴任の場合や、物理的な別居前に家庭内別居状態がある場合などは、物理的な別居時以外の日が基準日と判断されることもあります。

離婚調停や離婚訴訟では、「分与対象財産確定の基準日」について双方が合意できる場合は、その合意ができた日を基準日として、基準日に存在していた財産に関する資料を提出していくことになりますが、双方で合意ができない場合は、2つの基準日を維持しつつ手続を進めることになります(ちなみに後者の場合は、夫婦双方とも、提出する資料や作成する書面が多くなる傾向にあります)。

4 評価の基準日とは?

財産分与の対象となった各財産をどの時点で評価するのかが「評価の基準日」の問題となり、原則として「口頭弁論終結時」(≒離婚訴訟の判決直前の時期)の価格で評価すると考えられています。

実際には預貯金や生命保険金については別居時の残高や別居時の解約返戻金額で評価する一方、不動産、株式、外貨預金など時期による価格変動が大きい財産については、可能な限り口頭弁論終結時に近い評価額で評価することになります。

5 具体例

「分与対象財産確定の基準日」である別居開始日に、夫名義の資産として預金残高が500万円、X株式会社の株式が100株(同日の株価は1万円)あり、「評価の基準日」である口頭弁論終結時、預金が600万円、X株式会社の株式は100株のまま保有し株価が2万円に上昇していたとします。

夫名義の預金は口頭弁論終結時まで100万円増えていますが、上述4のとおり、預金については別居時残高で評価することになりますので500万円と計算されます。
他方、X株式会社の株式については、「分与対象財産確定の基準日」に保有していた100株が対象となり、株式の評価については口頭弁論終結時の株価が採用され200万円(100株×2万円)と評価され、預金と株式の合計額は700万円となり、これが夫名義の資産の額となります。

同じように妻名義の資産の額も計算します。仮に、妻名義の資産の額が300万円、分与割合が原則的な2分の1ずつの場合、夫婦での合計額が1000万円、そのうち夫が700万円すでに保有していることになりますので、200万円を妻に分与して、最終的に夫500万円、妻500万円となるように調整されます。

6 まとめ

離婚における財産分与の基準日については、実は2つの意味合いがあるにもかかわらず、調停や裁判の実務上では、単に「財産分与の基準日は」などと表現されてしまうため、誤解が生じやすいところではと思われます。

また、財産の各費目(預金、株式、不動産など)によってどのように評価されるか、どの時点での資料を証拠として提出すべきかも変わってくるため、なかなか糸筋縄ではいかないことも多い論点と言えます。

財産分与について少しでも気になるようでしたら、一度、法律相談を受けていいただきますと、財産分与に関する疑問点がクリアになってくるかと思います。

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