自分の住所を隠して離婚訴訟や慰謝料請求訴訟ができますか?
1 はじめに
慰謝料請求をする側からご相談で、ご相談者から「夫(妻)の不倫相手に慰謝料請求の裁判をしたいけれど、相手に住所を知られると何をされるか分からないので、住所を隠して裁判をすることはできないでしょうか。」とのご相談をいただくことがあります。
また、現在別居中の夫(又は妻)から以前に暴力などがあり、現在の住所を秘匿して離婚訴訟を進めたいとのご要望をいただくこともあります。
今回のコラムでは、慰謝料請求や離婚などの訴訟を提起する際、ご自身の住所を秘匿して訴訟を進めることができるのかにつき、解説させていただきたいと思います。
2 訴状に住所の記載は必須?
不倫などの慰謝料請求訴訟や離婚訴訟などの訴訟を提起する際、訴える側である原告は訴状を作成して裁判所に提出することになります。訴状には原告の住所を記載することが求められており、弁護士に依頼した場合でも同様とされています(原告ご本人の住所を記載するとともに、代理人弁護士の事務所住所も記載する形になります)。
訴状に原告の住所を記載する理由は色々ありますが、原告の特定のため(同姓同名の可能性があり、氏名だけでは本人の特定として不十分)のみならず、どこの裁判所で裁判ができるかという点(裁判所の土地管轄)などから原告の住所の記載が要請されています。
3 住所、氏名等の秘匿制度
しかし、夫婦間でのDVがある場合や不倫慰謝料事件で不倫相手からの報復の恐れがある場合など、被害者ともいえる原告が、被告に自身の住所を知られることを恐れる結果、訴訟提起自体を躊躇してしまうことにもなりかねません。
これまでは、訴訟代理人が就いた状態で訴訟提起時に上申書を裁判所に提出し、原告訴訟代理人の事務所所在地を記載するなどの方策で個別の対応はされていましたが、最近の法改正により、「住所、氏名等の秘匿制度」が新たに設けられ、本年(令和5年)2月20日から施行(実施)されました。
以下、そのうちの「住所、氏名等の秘匿」と「住所、氏名等の閲覧等の制限」につき少し見ていきたいと思います。
4 住所、氏名等の秘匿
訴訟提起時に提出する訴状には、先程のとおり、原告の住所を記載することが求められます。しかし、同時に裁判所に対し、原告住所についての「秘匿決定の申立て」を行い、裁判所が審理の結果、秘匿を許可する決定をしますと、訴状に記載する原告の住所の部分を「代替住所A」などの表記にすることが可能となります。
「秘匿決定の申立て」を行う際には、原告の住所を秘匿する必要がある理由を記載するとともに、それを裏付ける資料(例えば、暴力を受けたあとの診断書、市区役所が発行する支援決定通知書、原告ご本人の陳述書など)を提出する必要があり、それを受領した裁判所が、被告に住所を知られることにより原告において社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあるか否かを判断し、それがあると認めた場合、住所秘匿を許可する決定を下すことになります。
この決定がなされることにより、本来は訴状に「〒◯◯◯-◯◯◯◯ 東京都◯◯区◯◯町◯丁目◯番◯号 ◯◯マンション◯◯◯号室」のように詳細に記載しなくてはならない原告の住所につき、単に「代替住所A」と記載すれば足りることになります。
5 住所、氏名等の閲覧等の制限
原告住所に関する秘匿決定がなされた場合、原告住所を推測させるような記載がなされている他の裁判記録(訴状や準備書面などの書面)につき、その部分の閲覧や謄写(コピー)を制限する決定を求めることもできます。
例えば、原告住所そのものではなくても、原告と同居する子どもが通う小学校名や、原告住所の最寄り駅などの記載がある場合、原告自宅の住所そのものではないにせよ、原告自宅の場所をある程度特定されてしまうことになるため、その記載がある部分が被告やその他の第三者が閲覧や謄写をすることができないようにする必要が出てきます。
この手続も先程の「秘匿決定の申立て」と同様、裁判所への申立てが必要となり、対象となる部分をマスキングした書面などを添付して提出し、裁判所の判断を仰ぐことになります。
6 さいごに
今回解説させていただきました「住所、氏名等の秘匿制度」は本年(令和5年)2月に実施されたばかりの制度であり、今後、離婚訴訟や不倫等の慰謝料請求訴訟の分野での活用が期待されるところです。
当サイトでは今回の制度実施以前から、訴訟提起や調停申立て時における住所秘匿につき多くのご相談やご依頼をいただいており、「住所、氏名等の秘匿制度」が始まった以降も積極的に申立てを行い、実際に裁判所から許可決定を受けております。
もし離婚訴訟や不倫等の慰謝料請求訴訟をご検討中で、できることなら被告に住所を知られたくないというお悩みがございましたら、一度、当サイトにご相談いただけましたらと存じます。
当サイトは離婚事件などの家事事件に特化した法律事務所で、東京近辺のみならず、全国各地、海外からも多くのご相談やご依頼をいただき、様々な問題を解決して参りました。
離婚事件に関する初回のご相談は原則無料(45分間)とさせていただいておりますので、お気軽にご相談下さい。