慰謝料請求の成立要件②(故意・過失)
目次
少し見落としがちな成立要件
不倫に基づく慰謝料請求ができるかを検討する際、真っ先に思いつくのが交際相手との性交渉やそれに類する行為があったかという客観的な事実の存否だと思われます。
しかし、不倫慰謝料の法的な根拠は民法上の不法行為(709条、710条)であり、その成立には加害者(不倫の交際相手)における故意・過失という主観的(内心的)な要素の存在も必要となってきます。
今回は、この故意・過失について解説させていただきたいと思います。
そもそも故意・過失とは?
まず、故意や過失が何を意味するかですが、ここでは、故意は「ある事実を知っていたこと」、過失は「不注意によってある事実を知らなかったこと」とご理解いただくと分かりやすいと思います。かかる理解からすれば、一般的には故意よりも過失の方が認められやすいと言えます。
この点、人に刑罰という重い責任を科す刑法では、犯罪成立には原則故意が必要としつつ、過失でも犯罪が成立すると明文で規定されている罪名(業務上過失致死罪など)については過失でも犯罪が成立するとの構造になっています。
他方、民事上の不法行為は、行為当時に加害者に過失さえ認められれば、不法行為が成立し得るとの構造となっています(「過失責任の原則」と言います)。
故意・過失の対象は?
次に、不倫慰謝料事件における故意・過失の対象となる事実をどう理解するかにつきましては、大まかに①加害者において、その交際相手が既婚者であることにつき故意又は過失あれば足りるとする見解と、②それに加え、その相手の夫婦関係が破綻していないことについても必要とする見解があります。
もし②の立場を前提とすれば、加害者において、その交際相手が既婚者であると知っていたとしても、その夫婦関係が破綻していたと信じていた場合、不法行為が成立しない可能性が出てきます。
しかし、多くの裁判例においては、そのような加害者(被告)からの反論は排斥されており、一般的には①の見解のように、既婚者であることを知っていたか、不注意で知らなかったとさえ認められれば、この要件は充たされると判断されていると言えます。
故意・過失が認められない場合は?
逆に故意又は過失が認められない典型的な事例としては、既婚者であるにもかかわらず独身であると偽られて交際を開始した場合があり、実際の裁判例でも慰謝料請求が棄却された事案もあります。
しかし、先程のとおり、不法行為は過失でも成立してしまうため、実際に既婚者であると知らないで交際を開始し、終了していたとしても、不倫をされた夫又は妻から「既婚者であると知らなかったかもしれないが、気付かなかったことについて不注意があったのではないか」という理由で慰謝料請求を受ける可能性がありますので、この点は注意が必要です。