慰謝料請求の成立要件①(加害行為)
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不倫慰謝料は性交渉まで至っていなければ大丈夫??
既婚の方との交際や関わりによる慰謝料請求のご相談で、「不貞行為まではしていません。」「キスまではしましたが、最後まではしていません。」などの理由から「慰謝料は発生しないのではないでしょうか?」というご質問を受けることがよくあります。
今回は、この種の慰謝料請求事件における成立要件の1つである「加害行為」につき、少し詳しく解説させていただきたいと思います。
「不貞」「不倫」という表現が誤解を招いている?
私共も事件の分野として「不貞行為の慰謝料」「不倫慰謝料」などと表現しておりますところ、「不貞」や「不倫」という言葉からは性交渉(≒肉体関係)が連想されることから、挿入行為を含む性交渉まで至ったか至っていないかが慰謝料発生の分かれ目と理解されている部分があるのではと思うところです。
しかし、実際の裁判例からすれば、裁判所は、かかる性交渉まで至らない行為であっても、夫婦の共同生活を侵害、破壊する可能性がある行為と認められる場合には違法性がある加害行為ありと判断し、慰謝料の発生を認める立場を採っていると言えます。
性交渉以下の行為でも慰謝料が認められる例
例えば、性交渉まで至っていない場合であっても、①ホテルで一緒に入浴する行為、②下着姿で抱擁する行為、③キスなどの行為について、加害行為を認定し慰謝料を認めた裁判例が存在します。
もっとも、類似事案で慰謝料を否定している判例もあれば、もし慰謝料が認められたとしてもその慰謝料額は性交渉があった場合と比べると低額(数十万程度)に抑えられる傾向があるようです。
また、中には④「好きだよ」などの愛情表現を含むメールの送信自体を加害行為と認定している判例もありますが逆に否定している判例もあり、類似事案であっても判断が分かれることもありますが、いずれにせよ、裁判所は、「その行為があった場合、夫婦生活の平穏・平和が害されるか否か、婚姻継続を困難とさせるか否か」などという観点から、その行為の違法性の有無を判断しているものと言えます。
加害行為が微妙なケースでは一度ご相談を
以上のように、慰謝料が発生するためには、性交渉まで至ったことは必要な条件ではなく、それ以下の行為であったとしても既婚者との行き過ぎた関わりは、慰謝料の発生原因になる可能性があることを知っておくことはとても重要だと思います。
ただ、「どこまでなら大丈夫か」については、事案によっては一刀両断的に判断することは難しいこともあるとともに、実際の事件では、その他の様々な事情が存在することが通常と言えますので、自分と既婚者の関わり方や行為につき、他方配偶者に慰謝料を発生させ得るものかどうかについての判断がつきにくいケースでは、法律相談で詳しい事情をお伝えいただいた上でアドバイスを受けていただいた方が宜しいかと思われます。